エリア報告|高橋 豊明(ステップ顧問・神奈川県)

この原稿を書いているのは1月28日(木)。緊急事態宣言の最中です。

現在、猛威を奮っているコロナですが、今年に入り、とうとう弊社の職員(教師)の中にもコロナの陽性者が出ました。それまでは、「生徒の通う学校で感染者が出た」とか、「生徒の家族に陽性者が発生した」という内容が中心で、該当生徒のみ、「陰性が判明するまでは授業をZoomで参加してください。対面授業はしばらくお休みください」ということで済んでいました。しかし、陽性者が弊社の教師の場合は話が別です。もちろん、全教師ともマスクをして授業をしていますし、教室内はドアや窓を開け、換気が出来るようにしていますが、多くの生徒の前に立つ教師の場合は、「その教師だけをお休みに…」で話は終わりません。そこで、今回弊社が取った対応を参考までにお知らせいたします。

速やかな情報の開示と素早い自主的対応が肝心

①陽性判明後、該当スクールのその日の授業はすべて休講としました。そして、すぐに生徒・保護者に向けて、メールにてその理由と経過をお知らせしました。とにかく判明してから時間を置かないことを心懸けました。保護者の方には、教師の中に陽性者が出たことを告げ、当日と翌日の授業はお休みする旨をお知らせしました。ありがたいことに批判的な反応は皆無で、むしろこちらを気遣いいただくお言葉を多くいただきました。

②すぐに専門業者に依頼し、翌日の午前中に教室内を徹底的に消毒しました。

③感染防止のため、1月いっぱい、受験学年(中3生と若干の小6生)以外はZoomでの授業に切り替え、受験学年は「対面授業」を継続しつつ、希望者はZoomで参加できる態勢を準備し、時間割の変更等を速やかにお知らせいたしました。(結局、受験学年でZoomを希望されたのは各クラス若干名でした。)

④陽性になった教師はいつもマスクを着けており、職員室内で食事をとることもなかったので、通常は「濃厚接触者なし」という判断になるはずです。しかし、その判断をいただこうと保健所と連絡を取ろうとしても、土日祝日を挟んだこともありなかなか連絡が取れません。

⑤陽性となった者から聞いた専用(?)の電話番号でやっと保健所とつながったものの、陽性者の居住地と教室所在地の管轄保健所が異なっていたため、「お答えする権限がない」との回答でした。すぐに教室所在地の保健所に連絡を取りましたが、「今は手一杯でそちらに連絡できるのはいつになるか分からない」とのこと。このまま保健所の判断を待っていると、いつ教室を再開できるか分かりません。(実際、保健所から連絡をいただいたのはそれから3日後でした。)

⑥陽性者の出た教室のスタッフ6名は無症状でしたが、このまま授業をさせるのは危険です。そこで、保健所の判断を待たずにPCR検査を受けさせることにしましたが、街中の病院はほぼ検査の予約がいっぱいで、結果が出るのは早くとも数日先とのことでした。そこで、PCR検査を即日実施してくれる業者を探し出し、東京でスタッフ全員に検査を受けさせました。現在はいつでも自社で検査できるよう、検査キットを数十セット取り寄せています。

⑦検査を実施した日の夕方、結果がメールで送られてきました。全員陰性で事なきを得ました。

 今回の「教師の陽性判明」ではいくつか気を付けたことがあります。一つは生徒・保護者に現状を隠さず、速やかにお知らせするということです。情報を可能な限り開示することで、生徒・保護者の不安は小さくなります。今回の場合、ほとんどの保護者の方が応援してくださいました。
 そして、「保健所の対応を待たない」というのも気を付けたい点です。報道にもあるように保健所は忙しすぎて機能麻痺寸前のようです。濃厚接触者の有無の判断や指導を待っているとどんどん時間が経過し、対応が後手に回ります。PCR検査を自主的に受けて、陰性の証明をいただくのが早いと思います。素早く対応すれば次の日には陽性か陰性かは判明します。とにかく素早く動くことが肝心だと思った次第です。

緊急事態宣言下でのオンライライブ授業

弊社のその他の教室では、今回の緊急事態宣言下で、従来の対面でのライブ授業を継続しながら、同時にZoomを使ってその授業の「実況中継」(オンラインライブ配信)を行っています。各クラス若干名の生徒が感染防止のためであったり、体調不良であったり、濃厚接触が疑われる状態で外出できなかったり等の事情でこの実況中継に参加しています。この授業の中継はカメラ付きのノートパソコンかwebカメラを使って黒板全体を映し出すことができるように設定すれば、あとは対面で参加している生徒たちに授業をするだけですからそれほど負担にならないのが長所です。Zoomで参加している生徒のノートチェック等で若干行き届かない点もありますが、全般にはスムーズに進められています。

参加状況を見てみますと、中3の受験生はほとんどが対面授業を選んでいます。実力をつけて鍛えるという観点からすると、子どもたちにとっては教室での対面授業が魅力だということがよく伝わってきます。現在、ステップでは中3生対象に「日曜講習」を行っていますが、この講習は午前9時から18時半までの長丁場で、Zoomで参加する生徒もいます。前半のテストと後半の解説で1日がかりの講習ですが、Zoom参加の生徒にも自宅でまったく同じ時間にテストと解説授業に参加してもらい、答案を回収し、模試の処理も対面参加組と同様に実施しています。なお、リスニングは音声が飛んだりしないように十分に気を付けて行うことが必要です。このZoomを使った実況中継は一度機器を設定してしまえば、あとは比較的容易に行うことができるのでメリットが大きいと思います。

混乱の中から生まれた財産 対面とオンライン-ハイブリッド授業の手ごたえ

現在はこのような形で進めていますが、昨年4月の緊急事態宣言の当初はもっと混乱のスタートでした。3月に2週間、学校で一斉休校の時期がありましたが、そのときは自塾のオンライン配信動画を使いました。ステップではe-STEPという塾生専用の動画配信サイトを十数年に渡って運用しており、5教科でおよそ3000本の動画があります。その中から、この時期に見ると良いオススメの動画をピックアップし、休校中の生徒にぜひ見るようにプッシュしたわけですが、視聴率はなかなか上がりませんでした。その反省を踏まえ、4月の緊急事態宣言の発令が決まった段階で、「各教師が自分の担当する生徒向けに、それぞれクラス単位で動画を配信する」という大方針を決めました。皆が意気込んで1日に2本~3本の動画を準備して一斉に撮影、配信を始めました。ところが慣れない作業で色々とトラブルが生じます。中学部の約500人の教師が1日に4本ずつ動画を配信すると1日で2000本、2日で4000本と積み重なっていきます。その動画は本来圧縮して100MB以下に抑えるのが定石ですが、何しろ慣れていないものですから200MB、300MBの動画を、そのままアップする教師も出てきます(笑)。そうするとサーバーのオーバーフローが起き始めました。サーバーがストップしている間も100を超える教室の教師たちが次々に動画を上げていきます。私たちが使っているクラウド業者の担当の方も必死でサーバーの容量を拡大し、「これなら大丈夫だろう」という量まで拡張してくださるのですが、動画の数が拡張したサーバーをさらに上回り、さらにパンクが起こります。こうして初めの1週間くらいは混乱の中で動画を作り続ける日々でした。GWを挟み、土日を除いて1日2000本程度の動画を積み上げていったので、緊急事態宣言が解除される前にカウントしたところ、トータルで約54,000本の動画を配信していました。1本の長さはできるだけ15分以内に抑えるようにしたほうが視聴率が上がると言うこともわかってきたので、最終的にはほぼ10分から15分程度の動画にし、長くなりそうな場合は分割してアップするようにします。一般的な動画配信と違ってふだん教えている教師が担当している生徒に向けた動画となると、視聴率は飛躍的に上がります。視聴数も伸び、クラウドの担当者の方からは、「パリーグの野球中継よりも視聴者が多い」との感想も聞けたりしました。

動画配信を初めて2週間くらいした頃、動画を配信するだけでなく、Zoomを使って「ホームルーム(HR)」をしようという動きが活発になります。生徒や保護者とのコミュニケーションの中で、「家庭にこもった生活でメリハリがなくなっている」という不安を多くお聞きしたからです。そこでクラスによって午前10時、午前11時、午後1時と時間を決めてHRを始めたところ、これが非常に好評でした。「生活にメリハリがつく」「Zoomの中で友人とコミュニケーションが取れる」「先生の励ましの声が力づけてくれる」等。ZoomでのHRの際は保護者の方も生徒さんの横で一緒に参加される姿も見られます。そうなると次の段階では「Zoomを使って授業をするのも有力な手段ではないか」ということで、4月下旬からはZoomを使った授業を試行的に開始しました。そうするとこれがまた好評で、あっという間に全校舎的にZoomを使ったライブ授業が広がっていきます。このZoom授業では、生徒の顔を見ながら「〇〇君、これは大丈夫かい?」「〇〇さん、ここはどうなる?」と会話型で授業を進めることができます。この双方向の授業の場合は、時間が30分、40分となっても生徒は飽きずに積極的に参加します。こうして5月になると「動画配信」「ZoomHR」「Zoomによる実況中継」の3本柱でオンライン授業を進めました。そして5月の中旬になると「Zoomを使った模試もいいのではないか」という案が出て早速やってみたところ、これもなかなか好評でした。Zoomを使ってリスニングを流し、Zoomで手元を映してもらい、一斉に試験を解きます。そして答案はメールかFaxで回収します。そうするとクラス単位でも学年単位でも比較的スムーズに模試の運営ができることも分かってきました。こうして全般に軌道に乗った頃、5月の末に緊急事態宣言が解除され、6月に対面授業の再開を迎えたわけです。

この2ヶ月間、いろいろ手探りの中でオンライン授業のノウハウを積み上げていったことは私たちの大きな財産になっています。また、ステップが始まって以来というくらいの保護者の感謝や激励の声をいただくことができたのも大きな励みになりました。このときの蓄積があったからこそ、2回目の緊急事態宣言下でのスムーズな対応ができたと思っています。これからは対面授業を柱としつつも、オンラインとのハイブリッドの運営について工夫を重ねていきたいと思っているところです。