エリア四国 近藤誠介(72号)

エリア四国 近藤 誠介 (文化の森スクール・徳島県)

教育とは何かを、今、考える

地質学上では、現在は1万1700年前からの「完新世」にあたる。しかし、この区分に対し、ノーベル化学賞を受賞したバウル・クルッツェン博士は、産業革命以降の、人類が環境に大きく影響を及ぼし始めた時代を「人新世」と呼ぶことを提案する。特にこの30年間に発生した二酸化炭素が、その半分以上を占める。地球環環境を大きく変化させ、その運命をも揺るがしかねないものにしているのが、正にこの時代である。そしてその責任は、我々大人にあるのは間違いなく、グレタ・トュンベリが声をあげるのも至極、当然のことである。

先日のバイデン大統領の就任演説でもあったのだが、民主主義は貴重で、また、もろいものである。世界の趨勢をみていると、民主主義の危機と、みてとれないこともない。

こんな時代状況で、さて、「教育」とは、一体何なのであろう。と、大胆に書いてしまったものの、はたと困ってしまう。我々が生徒と向き合う時間は、ほんの一時に過ぎない。そして、その目的は、成績の向上だったり、入試の合格だったり、また、こちらの糊口をしのぐためだったりするかもしれない。ただ、それだけのことで、その子の人生に影響を及ぼせると思うのは、傲慢であろう。授業中にお説教じみて、人生を語るなどは、生徒に喜ばれる筈もない。反省…。しかし、人の出会いを考えると、お互いに意図せぬところで、影響を受けていることもある。表に顕れるのは、氷山の一角にしか過ぎないのだが、教育に携わる者…それも若い人との…として、氷山の水中の部分は大きくありたいと思う。

「教育」とは、子ども達を「より自由」にすることだろう。社会的、経済的、思想的、政治的、身体的etcに。「より自由」になるには、まず既成概念を疑ってみる。疑ってみて、それが自分にとって意味を持つものかどうか考えてみる。自分で考える、これが自由への第一歩。しかし、考えることを強要されて考えたとしても、それで、考えたといえるのだろうか。立場上、こちらとして言えることは、こちらも常に考え続ける、問うことを止めないという姿勢を続けるということだ。思考停止した人をみて、子どもは、思考しようと思うだろうか。教育のはしくれにいる者として、既成の上に胡坐をかいていることは許されまい。

と、偉そうに書いてみましたが、今の世の中、これからの人達のことを考えると、憂えざるをえない事態になっているようです。前述したように、気候変動は最大のファクターで、日本人は切迫感に欠けるようですが、誰にとっても逃れる術のないものです。それと切っても切れない、社会システム、資本主義社会は、いつまで有効なのでしょうか。かといって、中国の成長至上主義の経済システムでやっていることはもっと非道いのですが。ピケティが指摘したように、経済格差は広がっており、AIはその格差の是正には、何ら寄与していません。民主主義のフラジャイルさを痛感するこのごろですが、民主主義に価値を置かない教育は、一体、どのようなものになるのでしょう。

子ども達が自由であるためには、生存を脅かすような地球環境であってもらっては困ります。経済格差→教育格差となる社会をそのままに放置していいのでしょうか。

…等々、暇のあるコロナ禍のなかで、色々と考える契機となった著作を紹介させていただきます。

・「地球に住めなくなる日」デイビッド・ウォレス・ウェル

「現代社会」の教科書に。

・「人新世の資本論」 斉藤 幸平

「資本論」第一巻刊行以降のマルクスのエコロジー研究は、これからの時代を考える参考になります。

・「民主主義とは何か」 宇野 重視

菅首相は「君主論」が愛読書らしいのですが、こちらの本を読んでいただけたら。ただ、この著者は、学術会議で拒否されたメンバーですが。

・「生まれてこないほうが良かったのか?」 森岡 正博

「生まれてこなければよかった」という反出生主義を説明し、そして、その乗り越えを。「生まれてこなければよかった」は誰しも一度考えるのだが、「生まない方がよい」とは、この時代、非常に示唆的です。

・「コロナ後の教育へ」 苅谷 剛産

「大学性悪説」からの演繹型思考による政策構想が生み出した大学入試の大混乱。日本の教育政策ってエビデンスに欠けますよね。ところで、共通テストの問題、英検とかなら分りますが、大学で必要な学力を問うものとしてはいかがなものでしょうか。全く、教養が感じられません。

・マルクス・ガブリエル数々の著作

子どもたちは、宇宙が無限かどうか、自分たちは自由かどうか、正義とは何かを、彼らは知りたがっています。彼らがこれらを知りたがっているのは、彼らが人間だからであり、人間は必要に応じて哲学を行うからです。
「欲望の時代を哲学するⅡ」より- 

ご参考になれば、幸いです。