(株)声の教育社 営業課長 三谷 潤一
「コロナ禍 首都圏私学の取り組みとこれから」
新型コロナウィルスの感染防止のため、日本中の学校が臨時休校となった2020年3月から5月までの3ヶ月間。首都圏私学はどのように対応したのか。
静岡聖光学院は安倍首相の臨時休校要請会見直前に休校を決め、準備を進めていたオンライン授業を3月2日から段階的に実施した。3年前からiPadを導入したことも功を奏したようだ。横浜にある捜真女学校も政府から要請が出る前に生徒の安全を考え2月下旬に休校を決め、3月には双方向型授業をオンラインで実施していた。
多くの私学では、まず家庭学習用の課題が生徒に送られ、感染防止のための手洗いや生活習慣についての指示やアドバイスが出され、スタディサプリやClassi等を使用したインターネットでの学習も奨励された。休校期間の延長に伴い、オンライン授業が検討・実施されるようになった。品川女子学院は4月からリモート授業を開始し、5月には他校の先生方と情報を共有し意見交換をすべくオンライン報告会を実施、その際の動画を限定公開した。自校だけでなく他校とも協力して生徒達にとってプラスになることを提供したいという姿勢が表れている。
YouTube等で20分前後の動画による授業を見た後で課題に取り組む反転授業や、zoomを使って課題を5分ほど説明してからグループ毎に討論・発表をさせた後、レポートを提出するアクティブラーニングをオンラインで実践する私学もあった。積極的にICTを活用している三田国際学園では「準備が大変だけど、いつもとほぼ同じ授業ができている」とお聞きした。慣れない動画授業を配信するより生徒の自主性に任せて課題をご家庭に送り、インターネットを使用した個人面談や生徒からの質問に応じる形で生徒支援に徹する学校もあった。
いち早くオンライン授業を開始した学校の中には、先生が一方的に講義する50分授業をzoomで配信、新中1生がモニター越しに見られていることを意識して睡魔と闘いながら入学を悔やんでいたケースもあったらしい。おそらく学校側も気が付いてその後は改善されたと思うが、オンライン授業を「やればよい」ものではないことがわかる。
情報収集と拡散する動きの速さについては「寅の会」について触れておきたい。
「寅の会」とは文華女子高校の梅田浩一校長が呼びかけて年に1~2回行われる情報交換会の通称。毎回60人から100人近くの私学や塾の先生方や教育関係者が集まっていたが、これまで勉強会や講演会は一切行っていない。いわば大勢集まる会費制の「飲み会」に過ぎない。
2月末に休校要請が出た直後、「卒業式どうする?」「学年末試験と進級評価は?」梅田校長に寅の会のメンバーから問い合わせが次々と入ったため、一斉アンケートを実施。緊急事態に必要なのは速度だが、「梅ちゃんの頼みなら」と多くの学校がすぐに返答、梅田校長は2日もかけず各校の対応を一覧表にまとめ、「寅の会」メンバーに配信した。4月以降も「入学式は?」「休校中の課題やオンライン授業は?」「修学旅行や文化祭など行事は?」「部活は?」相次ぐ他校の状況を知りたい、という問い合わせに次々と応えていった。「寅の会」の私学ネットワークが作成した項目別の各校対応一覧表は県境や競合校の壁を超えて入試広報の先生方の間で共有された。「寅の会」の仲間意識が功を奏した格好だ。
私塾ネット会員塾をはじめとした多くの学習塾の先生方も様々な試行錯誤や情報交換を重ねて休校期間に様々な取り組みをされたことと想像する。オンライン授業、課題作成と添削、授業動画の作成…等、募集活動はままならない中、仕事量は格段に増えた方も多いことだろう。私学・私塾を問わず、いつもの仕事に加えて慣れないことにも取り組まれた先生方に敬意を表したい。
外出できない状況でやむなく重ねた試行錯誤であっても、単なる飲み会仲間の「寅の会」が貴重な情報交換のネットワークに化けたように、悪いことばかりではない筈だ。モニター越しの授業から新たな発見が生まれ、より高い学習効果が期待できるきっかけになったり、対面式の授業では気が付けなかった生徒の長所に気が付いたりすることもあったに違いない。
さて、新型コロナウィルス感染が再び拡大した場合、従来通りに入試を実施できなくなるのではないか、という懸念があるので触れておきたい。私学の一部ではオンライン入試を検討、海外の現地生向け帰国子女入試や転編入試験での一部導入を公表しているところもある。ただ、オンラインの場合、不可抗力による通信の中断が起こり得る点をどう考えるかという問題がある。入試規模にもよるが、数百人以上の入試規模でオンライン入試を行うのは難しい。三密を避けるべく、時間短縮や実施会場の拡大などをしてでも筆記試験は行うことになるのではないか。過去問題集を出版している業者の希望的観測です。