エリア報告|柳田 浩靖 (日米文化学院 ・千葉県)

さやか星小学校の衝撃

10月23日(木)、JR小海線・青沼駅に降り立った瞬間、私は心から思った。「本当にこんなところに先進的な学校があるのか?」眼前に広がるのは、ただひたすら何もない田園風景。ちょうど子どもたちの通学時間と重なっていたので、電車通学の児童に声をかけてみた。

「この辺、コンビニとかないよね?」「ありません!」と元気な返事。「それより、帰る時は気をつけてください。1本乗り逃したら、帰れませんよ!」駅から徒歩3分。見通しの良い道の先に「さやか星小学校」の体育館が見える。校舎は創立150周年の旧・青沼小学校の廃校を利用したもので、外観はソフトに言えば「歴史ある小学校」。グラウンドには雑草が生い茂っている。正直、不安がよぎる。校舎内に案内されても、教室設備は普通の小学校と変わらない。「大丈夫なのか…?」

その不安は、最初の授業を見学した瞬間に、まったく別の驚きへと変わった。

小1・2年生の体育、「鬼遊び」の授業。子どもたちは移動中や集団行動の時は、常にペアで手を繋いでいる。理由を尋ねると「色々ありますが大きく言うと安全確保です」と素っ気ない答えが返ってきた。驚いたのは、20名程度の児童に対して先生が5、6名も配置されていることだ。「これでどうやって経営しているんですかね?」同行の阿部先生が耳打ちする。私も大きく頷く。

授業が始まる。先生の指示は、低学年にしては極めて簡潔で、口調も決して優しくない。「きっと楽しい授業づくりをしているんだろう」という予想は、完全に外れた。ただ、指示の途中でも先生は見逃さない。

「○○さんの聞く姿勢が素晴らしいですね」

さりげなく、その都度、良い行動を褒める。

一方で、「やめて!」と後ろの男の子に大声で言った女の子がいた。すると即座に、「○○さん、その言い方は良くないですね。もう一度、やり直しましょう」

感情的ではない。落ち着いた、低いトーン。女の子も悪びれることなく言い直し、しっかりと謝った。

褒める時も叱る時も、先生のトーンは一貫して冷静だった。聞く人によっては「冷たい」と感じるかもしれない。私も最初はそう思った。だが、この印象は後に大きく覆されることになる。

休み時間になっても、子どもたちはすぐには教室に戻らない。思い思いに体育館で遊んでいる。先生たちは体育館の別々の位置に立ち、黙って見守っている。子どもたちが先生の目の届かない場所に移動することは許されない。理由は明確だった。少しでも「いじめ」につながるような状況に子どもたちを置かないためだ。

午前中の授業を終えて、給食の時間。各学年が「島」に分かれて食事をとる中、一つだけ無学年の島があった。さらに、その島から少し離れたところに、先ほど体育の授業で注意されていた女の子がポツンと座っている。適度な距離を保ちながら、先生が個別に対応していた。
「なぜあの子だけ離れて食事をしているのだろう?」

疑問に思い、校長先生に尋ねた。

「あれはエジソン学級です」

エジソン学級とは、いわゆる特別支援学級のことだ。

衝撃だった。実は今回のさやか星小学校のオープンデイの午前中の授業では、エジソン学級の児童も、通常の学年級で授業を受けていた。私はこの島にいる子どもたちのほとんどに「違和感」を感じていなかったのだ。それどころか、授業中にクラスの中心となって発言していた子どもたちも複数いた。一人ひとりの経緯を聞いて、さらに驚いた。ほとんどの子が、この学校に来るまでに「通常学級では難しい」と判断されていたという。そして、先ほどの女の子。彼女は入学時点では重度の「適応障害」と診断されており、集団行動は無理だと言われていたそうだ。

「よく半年でこの段階にまで来られたと思います」

校長先生が感慨深げに語った。

驚きはまだ続いた。5年生の授業は児童が3人しかいないにもかかわらず、非常に活発に意見交換がなされていた。「さすが上級生!」と感心していたところ、衝撃の事実を知らされる。その内の二人は、昨年までエジソン学級だった。しかも、その内の一人は、昨年この学校に転校してくるまで3年間不登校で、学力は読み書きを含めて小1レベル以下だったという。

「1年間でここまで伸びるのか…」ちなみに、私はその三人の中で誰がエジソン学級出身だったのか、まったく当てられなかった。

さやか星小学校は、応用行動分析学という科学的手法に基づいて教育を実践している。創立者は、4月の全国研修大会で講演いただいた奥田健次先生だ。この学校の核心は「すべての子どもに個別最適な学びを完全に実現する」こと。画一的な指導をせず、一人ひとりの能力レベル、ペース、状態に合わせて指導する。法政大学の島宗理教授がカリキュラムを監修している。

その成果は、不登校ゼロ、長期欠席ゼロ、保健室登校ゼロという形で結実している。子どもたちが本当に「自分から行きたくなる学校」を実現しているのだ。ただし、これは単に「優しい学校」だからではない。むしろ逆だ。全ての先生が行動分析学を学び、月2回の事例研究、週1回の全児童のカンファレンスを行っている。私が当初「冷たい」と感じた1年生の担任は、学内で最もスキルが高い先生だと後で校長から知らされた。振り返ると、授業での一つひとつの動き、言葉、タイミングが、すべて計算されていたことがわかる。感情に流されない一貫した対応。即座のフィードバック。その場でのやり直し。子どもたちを感情でコントロールするのではなく、科学的な方法で「できる」ように導いていく。それがこの学校の本質だった。

現在の在籍生は小1から5年までの約40名に対して、先生の数は10人を超える。「これだけの人員をかけられるから可能なのでは?」という見方もあるかもしれない。だが、私は確信した。これは単なる人海戦術ではない。科学的な方法論があり、それを実践でき、教員の専門性があり、徹底したカンファレンスの仕組みがあってこその成果だ。

そして何より、ここで実現されているのが本物の「インクルーシブ教育」ではないかと思えた。

特別な支援が必要な子どもを「隔離」するのでもなく、かといって「配慮」の名のもとに放置するのでもない。一人ひとりに最適な学びを提供し、その結果として子どもたちが「通常学級」「支援学級」という枠を超えて成長していく。その姿を、私は目の当たりにした。

私塾ネットの皆さんには、機会があれば、ぜひ一度この学校を訪れてほしい。百聞は一見に如かず。「科学的根拠に基づく教育」の実践を、自分の目で確かめる価値がある。また、学校は寄付による支援も受け付けている。この挑戦を続けていくために、私たちにできることがあるはずだ。

今後もこの学校の展開をウォッチし続けたいと思う。