現場レポート 大学の「いま」 vol.2 by アロー総研

7割が第1志望校に合格

68.3%。ある調査によると、2022年度大学進学者のうち68.3%が、「入学した大学は第1志望校だった」と回答しました。約7割の受験生が第1志望校に合格したという結果です。これはおそらく、戦後の大学受験において、かつてなかった状況のはずです。第1志望校は自分の実力より上の大学。最後の最後まで受験勉強をがんばって、無事、努力を実らせることができた、限られた人だけ入学を許されるのが第1志望校。大半の受験生が合格できるのは、第2志望校か第3志望校で、それでも夢が叶わない場合は、「すべりどめ」の大学。第1志望校に入学できるというのはレアケースだったのです(と、この記事を書いている私自身が第1志望校にふられています)。

受験カレンダーの更新を

さらに、「高校2年の3月までに第1志望校を決めた」という人は大学進学者の65.3%に上っています。高校3年の夏ごろにやっと志望校が決まって、エンジンがかかる、というカレンダーはすっかり過去のものになっていると言えるでしょう。大学受験スケジュールの全体的な前倒しと、受験生の過半数が第1志望校の合格通知を手にしているという事実。この背景には、ますます拍車がかかっている「年内入試シフト」があると言えます。

連載2回目の今回は、大学の「入口」、いま大学入試はどうなっているのか、ご報告をします。

大学入試の主役が交代

年明けの1月に実施される「大学入学共通テスト」、2月、3月に実施される私立大学の一般選抜、国公立大学の2次試験(個別試験)を「年明け入試」と呼ぶのに対し、年内に実施される総合型選抜、学校推薦型選抜を「年内入試」と呼びます。

ほんの少し前までは、学力で合否が決まる一般選抜こそが大学入試の本道で、年内入試は、勉強嫌いの受験生を甘やかす「青田買い入試」として、格下扱いをされていました。大手予備校も、自分たちが得意とする一般選抜の合格者数を高々と掲げ、年内入試については「見て見ぬふり」の格好だったと言っても過言ではありません。

ところが、私立大学では、年内入試による入学者が過半数となってしばらく経ち、国立大学協会も入学者の3割を年内入試による合格者とする方針を発表しています。

大学入試の主役は年内入試に。コロナ禍の前から、その兆候はありましたが、コロナ禍を経て、より強固なものになり、年内入試シフトにブレーキをかけるものは、いまのところ見つかっていません。

必要悪と妥協のカタマリ

その年内入試について、大学や高校のヒアリングをしていると、それぞれのホンネが見えてきます。まず、学校推薦型選抜ですが、多くの大学が「必要悪」として見ているようです。本当は一般選抜で学力のある受験生を獲得したいが、一般選抜は「票読み」ができないので、入学定員割れのリスクが高い。「固定票」となる指定校推薦入試で、安全水域まで入学者を確保しておきたいというわけです。一方、高校サイドもこの傾向を警戒しています。生徒自身や保護者は指定校推薦入試で受験させろと言っている。同時に入学者をとにかく確保したい大学サイドの思惑も透けて見えている。不完全なまま高校の学習を終えて、学力不足があきらかな学生ばかり集めて、大学はきちんと育てる覚悟はあるのか。高校も大学も「良いことではない」と知りつつ、やめられない。極論すれば、学校推薦型選抜は必要悪や妥協の塊となっているのです。

一般選抜の方が楽かも

総合型選抜については、大学、高校のスタンスが二極化していると言えるでしょう。難関大学やまじめな大学は、総合型選抜で「尖った学生」を集めようとしています。たとえば京都大学。京都大学「特色入試」の募集要項では冒頭で総長がノーベル賞やフィールズ賞の話をしています。京都大学は、ずばり、ノーベル賞候補となるような学生を総合型選抜で獲得したいのです。ノーベル賞までハードルを上げなくても、出願要件として「英検準1級」「英検1級」などを求める難関大学も少なくありません。お茶の水女子大学の総合型選抜「新フンボルト入試」では、大学の図書館や実験室で試験を行います。難解な専門書や各種の実験器具を使いこなし、プレゼンテーションをしたり、グループ討論ができる学生を求めているということです。

中堅・下位大学でも、まじめな大学は、毎日の授業を活性化してくれる、主体的で積極的な学生を迎え入れるため、手間のかかるユニークな総合型選抜を実施しているのです。

ざっくり言って、難関大学やまじめな大学が実施する総合型選抜は、「一般選抜で合格する方が楽」と言っても良いでしょう。ただし、さまざまな課題に挑戦する総合型選抜と相性の良い高校生は一定数いるので、皆様の教室にそういう塾生がいたら、総合型選抜を利用しない手はありません。

いい加減な生徒を送り込む

それとは対照的に、学力勝負の一般選抜とは違って、合否基準が多様、つまり曖昧という、総合型選抜の特色を「悪用」する大学も一定数存在します。こういった大学では、もはや「選抜」の機能は置き去りにされて、「入学させる口実」「不合格にしない方便」として総合型選抜を利用しているのが実態です。

もちろん、高校サイドも入学定員割れを何よりもおそれる大学の弱みを知っているので、いい加減な大学には、いい加減な生徒を送り込みます。受験勉強もろくにしないので一般選抜では戦えない、毎日の学業成績もよろしくないので指定校推薦入試でも出願できない、そういう生徒にいい加減な総合型選抜を紹介していくわけです。

ノーベル賞をねらう総合型選抜と、向学心の薄弱な受験生のため総合型選抜。進路指導では、塾生の志望校が実施している総合型選抜がどちらを志向しているのか、確認しておく必要があるでしょう。

年内入試の話ばかりで、失礼しました。一般選抜についても、特に現在の高校2年生が受験する2025年度入試は、新指導要領による初めての大学入試となるので、注目ポイントが多数あります。次の機会にご報告したいと思っています。

アロー教育総合研究所
所長 / 田嶋 裕(たじま・ゆたか)

1969年生まれ。95年早稲田大学法学部卒業。大手予備校、ラジオ局報道部記者を経て、アロー教育総合研究所に入所。大学入試の調査を担当。城西大学外部評価委員。