特集・コロナ禍と塾②特別寄稿(小宮山 博仁)

教育評論家 小宮山 博仁(私塾ネット名誉会員)

昨年の暮れから流行り始めた今回の新型コロナウィルスは、その後3か月であっという間にほぼ全世界に拡散し、現在も多くの国では感染者数及び死者数が増え続けている。今回の感染症は我々にとっては未体験ゾーンであるが、将来のことが予測がつかないと言って、手をこまねいているわけにはいかない。過去のしっかりとした知見とエビデンスで、これから起こることに対応していく力が、子どもに伝えようとしている「生きる力」ではないだろうか。

過去の経済不況や20世紀中頃までに定期的に生じた経済恐慌は、基本的には生産の過剰か過少消費が要因であった。しかし今回は人類がまだあまり経験していない、生産と消費が同時に減少する縮小再生産という状況になりつつある。短期間にこのような社会状況になったのは、人と商品と貨幣の動きが活発になった「グローバル化した社会」であったことは言うまでもないだろう。

私たちの生活が変化するということは、求められる職種だけでなく働き方や生産方法やサービスの提供のしかたも変わってくることを意味している。公教育も今まで以上に「何のための教育か!」という難題に取りくむことになる。

求められる学力や能力が変化してくることが予想できる。当然「生きる力」の内容も今まで以上に範囲が広がってくるであろう。数学・英語・国語といった何かを学ぶための道具として役立つ教科だけでなく、経済学・法学・社会学・経営学・心理学といった社会科学系、工学・物理学・生化学・地学・医学・薬学といった自然科学系、といった高校までに学ぶ知識が多くの市民に求められてくるに違いない。高校の教科書の内容を一通り身につければ、それは一般教養(リベラルアーツ)になるとも言われている。「リベラルアーツ」という用語は、実践的にはあまり役立たない芸術・文化という意味合いが強いと思っている方も多いであろう。しかし危機に対応できる「生きる力」の基になるのが一般教養であると考えることもできる。多くの情報を自分の持っている知識や教養で理解して「知恵」として、納得のいく行動を1人ひとりの市民が実践することによって、より強い力を結集することが可能となる。

人間の「知恵」と「食糧(物の生産と言ってもよい)」この2つが危機に対応するために最終的に必要とされるものであろう。この2つは人の連帯感と関連することは明らかである。お互い協力して「知恵」を出す、協同で「食糧生産」を行う、これは人類が長い歴史の中で築いてきた「共同体」内で実践されてきたことである。家父長的なたての関係の農村共同ではなく、近代的なフラットで平等な「コミュニティ(共同体)」が注目されてくるに違いない。この時教育の役割は重要である。

点数を他人と競わせるだけの受験勉強、上・下関係や賞罰を中心とした外発的動機付けの教育では、学ぶ意欲は継続しにくく、しかも連帯感を築くのは難しい。このような社会情況下では、内発的動機付け中心の教育で市民の連帯感を強めることが求められる。ふだんどのような授業をしているか、してきたかを、新しい感染症で試されているのが、今の塾なのではないだろうか。塾講師や経営者と子どもの関係性が「密」であるか、そして親和的であるかが問われている。

これからもオンライン授業は多くの塾で様々な工夫をしながら取り入れていくことになるだろう。その時、ふだんからサービスを提供する側と受ける側に信頼関係を築いてきた塾では、消費者はその授業スタイルを受け入れることが多い。お互いを信頼し連帯感を保つには、学力や成績だけの関係性でなく、人と人とのつながりを重視した「生きる力」が注目されるであろう。(この力は「人間力」という用語で表わすこともできるのではないか。

図解 眠れなくなるほど面白い大人のための算数と数学 

「算数・数学、何のために勉強するの?」という子どもの質問に対し、「割合や速さなど実生活で活用しているでしょ。それに論理的思考能力が養われるわよ」と答える保護者や教育関係者は多いのではないだろうか。しかしさらに「私は文系なのに何で論理的思考力が必要なの?」と言われたら、我々はどのような答えを用意するだろうか。「生きていく上で何かと便利だよ。生きる力を身につけよう!」と伝えるのが精一杯であろう。

ここ25年間で日本は、阪神淡路大震災(1995年)、リーマンショック(2008年)、東日本大震災(2011年)、そして現在の新型コロナウィルスの爆発的な拡散、といった大きな災害に4回も遭遇している。このような時我々に求められるのは、正しい情報を収集し、今までに得た知識と経験を総動員して、皆で力を合わせて、冷静にかつロジカル(論理的)に行動する「力」ではないだろうか。これも生きていく上での「知恵」と考えると、算数・数学的発想は、理系だけでなく文系や社会科学系の人にも身につけておきたいものである。

算数・数学は「つみ上げ式」の学問であるが、一定の小・中学校の範囲の知識を身につけておくと、「数学の学び直し」が可能となるに違いない。特に学校を卒業した大人は、「テストで評価される」心配はない。時間があるときに自分の意志で「学ぶ」から、少しでも「わかる」部分を発見すると「面白く」なってくる。

このような主旨でシリーズ「眠れなくなるほど面白い~」は書かれている。第1弾は「眠れなくなるほど面白い数学の定理」(2018年発売)で、発売部数は今まで約9万部となっている。第2弾は「~数と数式の話」、第3弾は「~統計学の話」、そして最新刊は今回紹介する「眠れなくなるほど面白い大人のための算数と数学」である。

この本は、小学校・中学校の算数と数学が中心となっている。基本から「サクッと」おさらいでき、算数や数学の面白さが伝わるような内容である。大人になってよく考えてみるとわからないこと、子どもに聞かれて説明できない身近かなことがけっこうある。例を少し書き並べると次のようになる。

①長方形の面積はなぜタテ×ヨコで求めるの?
②算数と数学は何が違うの?
③無理数って、どういう数なの?
④数学の数字や単位は世界共通語?
⑤たし算やひき算は同じ単位で計算するのに、かけ算やわり算は計算すると単位が変わる、これどういうこと?
⑥ピタゴラスの定理は何に応用できるの?

算数や数学は、基本的な考え方がわかれば、納得できて面白い!! 文系人間をはじめ苦手意識の強い小・中・高の算数と数学を、まるごと一気に学び直せる本である。本書を読めば、日常生活に活用されている算数や数学が身近かに感じられ、「数学的な思考」が身につき、ロジカルな発想を手に入れることができる。

各章の見出しは次のようになっている。
プロローグ「算数と数学のルーツ」
「算数と数学の違いがわかる」
「小学校の算数がわかる」
「中学・高校の数学がわかる」
「日常生活に活用されている数学」
「大人が答えられない算数のナゾ」
「算数と数学の問題を解く」
エピローグ「毎日の生活に役立つ算数と数学」