子どもの学ぶモチベーションを高める方法 [2023.10.21]

文:私塾ネット広報部長 宮澤 歩

「子どもの学ぶモチベーションを高める方法」~学習意欲に5倍の差が出る話~
株式会社ミライメイク 代表取締役 鹿嶌将博さん講演

Q.日本の大学生の悩み  第1位は何でしょう?

会場からは、「コミュニケーションの取り方」「サークル等で友達ができず、地元の友達と付き合いあいがち」「人間関係の作り方」「将来の夢がない」「就職どうする」「税金(年金)を納める意味は」などの声があがった。
マイナビの2021年の調査では、1位:就職活動・将来の働き方、2位:人生や将来の生き方、3位:お金、4位:大学の勉強・授業となっていて、アルバイトについて、自分の性格や外見、友達や先輩後輩との人間関係というのは少数であった。

ここから、「この先どう生きていけばいいのか分からない」というのが多くの大学生がかかえている悩みだという事が分かる。「親や先生に言われて一生懸命頑張って勉強してきたけれど…この先どうすればいいかわからない」という声が調査結果の概要にも挙がっていた。これが今日、共有したい課題。

私たち塾関係者は「成績さえ上げればよい」とわりきることもできなくはない業界である。ただ、昨今色々なツールが出てきており、成績を上げるだけならば手段が増えている中、塾として生身の先生が子どもの生き方、進路など全てにわたる相談相手としてこれから求められていくのではないか。成績を上げるだけでなく、これらの事に向き合えないかなと考えている。

もう一点、アメリカのギャラップ社の「グローバル職場環境調査」のデータから。「熱意ある社員」「熱意をもって今の仕事に取り組めているか」という問いに対して、日本では5%しかYesと答えていない。1位アメリカ、2位インドでは30%を超えている。次いでブラジル、ロシアと続き、日本は調査した125か国中125位であった。先ほどの大学生の調査から見ても、悩んだ結果、社会に出てからも熱意ややりがいを感じられていないのが日本のひとつの姿と言えるのではないだろうか。

世界では、AIの進歩もあり、その発達によって取って代わられてしまう職業がある中で人間は何をすべきか、人間は情熱やアイディアや人付き合いといったコミュニティをもとにAIがたどり着けない様な答え・納得解を見つけていって人を巻きこんでサービスを変えていくというのが人間の役割だと考えられている。だから熱意のある人間を育てていかないといけなく、従業員のエンゲージメントを高めようとしている。世界平均値は2012年の17.8%から2022年までに5~10%上がって25%を超えているが、日本は低い値で推移していて2022年では5%を切っている。このことから世界と日本の差は広がっているといえる。

ここから、視点を変えて。

Q.日本の子ども(6~15歳)の学校外での勉強時間は何時間?

会場からは、「1時間くらい」、「45分くらいではないか」、「とにかく短いのではないかと思う」という声があった。
SPRIX基礎学力研究所の2021年の調査では、学校外の勉強時間(塾の時間も含む)は、1位がインドで2.7時間、2位中国2.3時間、3位インドネシアとポーランドで1.9時間、5位アメリカ1.8時間と続く、日本は調査した国の中で最低の1.1時間だった。世界の平均がアメリカと同じ1.8時間だったのと比べると30分以上少ないことが分かる。ここからは様々なことが考えられる。「調べ学習が多い故に北欧の国は時間が長くなるが、日本ではそういう学習が少ないまたは勉強時間に含まれていない可能性があるのではないか」という見方もある。また、「日本には宿題があるのである程度の勉強時間は担保されているはずなのにどうしてこんなに低いのか」という見方もできる。「フランス(1.3時間)では宿題は禁止されているので、そう考えると宿題のある日本との学習量の差は大きい」とも言える。日本の内情としては、ほとんどやらない0時間の子どもが多数いる一方で、2時間3時間勉強する子どももいるというのが塾の先生が方の肌感ではないか。

■日本は勉強しない国?

私たち(ミライメイク)は日本の子どもたちの勉強時間やモチベーションが低いのは「キャリア教育・将来なりたい姿を考える時間」の不足と仮説を立てている。
OECDの「キャリア教育の専門キャリアカウンセラーがいる学校に通う15歳生徒の率」という79か国を対象にした調査では、1位:ウクライナ(100%)、2位:ノルウェー(98.6%)、スウェーデン(98.4%)となっており、アメリカは17位で82.3%、イギリスは20位で80.3%である一方、日本は最下位の79位で4.4%となっている。ほとんどの学校にキャリアカウンセラーはいないし、別の見方をすればキャリアカウンセラーの必要性が認められていないと言える。実はこういう格差については文科省改善すべきとは考えていて2020年をキャリア教育改革元年と銘打ってテコ入れをする予定であったが、コロナ禍で、現場がそれどころでなくなってしまい、現状としてはほとんど動いていない。

■その結果、日本の子どもには「夢」がない

SPRIX基礎学力研究所の2021年の調査では、子どもが「なりたい職業はない・決まっていない」と答えた割合は、ミャンマー1.3%、インド・インドネシア1.6%、中国2.8%、とつづき、アメリカ8.1%、イギリス14.5%、フランス15.9%となっているのに比べて、日本の子どもは30.6%と飛び抜けている。これは、逆に7割近い子どもはなりたい職業があるのだからいいだろうと見ることもできる。しかし、ソニー生命が2021年に調査した「なりたい職業」ランキングの日米比較を見ると、アメリカでは医師、看護師、教師、弁護士、エンジニア・プログラマー、心理学者などの職業が並ぶのに対して、日本ではユーチューバー、プロゲーマー、ゲームクリエイター、芸能人、漫画家、社長などが並ぶ。
アメリカはキャリア教育先進国で、早期キャリア境域に力を入れているので、自分の将来にきちんと向き合った結果としてこういう形になっていると考えられる。一方で日本は7割のなりたい職業が決まっている子どもの内訳がこれであるとすると、親・大人としては、本当にこれでいいのか、これで大丈夫なのかと思ってしまう。しかし、アメリカの子どもに比べて、日本の子どもが劣っている、ダメだという事ではないはずである。まずいのは日本の教育環境、大人なのではないか。

<世界のキャリア教育>
アメリカ…キャリア教育の目的を「コミュニティ人材の育成」&「学力向上」と明文化、キャリアデイやキャリアパスウェイの整備、ハワイのライフプラン授業
ドイツ…元祖マイスターの国、10歳で大学進学か職人(マイスター)の道へ進むかの二択を迫られる、インターンシップや仮想都市PBLで早期キャリア教育を実施
フィンランド…キャリア教育+シチズンシップ教育、Me and MyCity(選択授業)は小学6年生の
75%が体験、当日までに10回以上の協働学習やセッションを行う

日本のようなキャリア教育(職業紹介・見学)ではなく、自分たちが社会に出たら何がしたいか、どんな事をすると自分たちが幸せを感じるのかとういうことに向きあって子どもたちを育てている。キャリア教育=職業理解ではない。「なりたい自分探し&なる方法を考える」教育である。

ベネッセ教育総合研究所の第3回学習基本調査では、「なりたい職業がある子とない子の学習姿勢」について調べている。

「授業で習ったことを自分でもっと詳しく調べる」では20%以上、「自分で興味を持ったことを学校の勉強と関係なく調べる」では13%程度、「嫌いな科目の勉強も一生懸命する」「予習をしてから授業を受ける」でも10%以上の差が出ている。すべてにおいて相関関係が見える。
一番注目したいのは、「授業で習ったことを自分でもっと詳しく調べる」のところの差である。「今習ったことって本当に将来の役に立つのか」、子どもであれば一度は考えたことがあると思う。この辺りがキャリア教育をきちんとやっておくと解消される。ある子の目標には必要であるとか、全ての職業の既存として必要だとか、それぞれに考えることができる。「授業で習ったことが役に立つかどうか」というのは将来が見えていないと懐疑的になってしまう。

■なりたい職業の有無と学校外勉強時間の相関

日本を含む世界11か国での調査結果は、「なりたい職業がない子どもが1.3時間」なのに対し「なりたい職業がある子どもは1.8時間」つまり、毎日の勉強時間が30分増えていることがわかる。日本の子どもたちは、なりたい職業を見つけることで勉強時間を0.5時間(30分)増やせるのではないかと考える。日本の子どもの勉強時間は1.1時間だったので、世界の平均から見ると「なりたい職業がない子ども」の勉強時間よりも少ないというのは相当まずい状態ではないか。

国立教育政策研究所が出しているデータによると、充実した学習計画に基づいてキャリア教育をしている学校ほど学習意欲も向上する傾向にあるとし、小学校でキャリア教育の充実度が低い学校が9.7%なのに対し、充実している学校は45.1%、中学校で低い学校は21.4%に対し充実している学校では55.1%、高等学校では低い学校で31.3%に対して充実している学校では65.4%が学習意欲の向上を認識しているという。こういう学習意欲の向上が見込める状況を作れるのであれば、キャリア教育はするべきだと言えるのではないか。いずれの階層でもキャリア教育の学習意欲UP効果は見込めるが、最も差が出ているのは小学校で、その差は5倍にもなる。

日本にもキャリア教育を!という考えから、私たち(ミライメイク)「元・塾の先生軍団」が作ったのが「DreamDriven (dream-driven.jp)」です。ここからは弊社のプロダクトを問題解決のひとつとのカタチとして紹介させてくださいという事で会場と名古屋のスタジオをネットで結んで、実際のDreamDrivenを体験させていただきました。