現場レポート 大学の「いま」 vol.10 by アロー総研

何が違う?経済学部、経営学部、商学部

 「経済学部と経営学部、商学部って何が違うの?」「どれもお金やビジネスの勉強をする場所でしょ?」
 進路指導や受験相談の現場で、塾生や保護者の皆様から最も頻繁に聞かれる質問がこれです。実際、大学関係者でも明確に答えられないことがあるほど、これら3つの学部は混同されがちです。しかし、「経済学」と「経営・商学」の間には、学問としての決定的な違いが存在します。この記事では、曖昧になりがちな3学部の違いを、具体的な事例を交えてわかりやすく解説します。

似ている?似てない?3つの学部

 3つの学部を整理すると、以下のようになります。

●経営学部・商学部:ほぼ同じ学部。「ビジネス(金儲け)」を学ぶ。
●経済学部:まったくの別物。「『幸福』の分配の仕方」を学ぶ。

 それぞれの違いを詳しく見ていきましょう。
 まず、「経営学部」と「商学部」の違いから片付けてしまいましょう。結論から言うと、この2つの学部に本質的な違いはありません。どちらも「企業活動」や「ビジネス」を学ぶ場所です。あえて違いを挙げるとすれば、成立した歴史的背景と得意分野の傾向が違います。
 商学部=戦前から存在。広告論、マーケティング、貿易、流通など、「商い(取引)」そのものに直結する内容を学ぶ。
 経営学部=戦後に誕生。簿記、会計、組織論、経営戦略など、「組織」を効率的に管理・運営することを学ぶ。
 明治大学や早稲田大学のように歴史のある大学には「商学部」が多く、戦後に設置された大学や学部には「経営学部」という名称が多い傾向があります。
 現在ではカリキュラムが融合していることも多く、「どちらもビジネスの現場で勝つための方法(=利益を上げる方法)を学ぶ学部」と考えて差し支えありません。

「便器のハエ」と「大相撲」も研究対象

 ちなみに、「経済学部って結局お金の計算ばかりでしょ?」と思っていませんか?それも誤解です。経済学は「お金」を扱いますが、それはあくまで「社会現象を数字で表すための代表的な指標」がお金だからに過ぎません。
 たとえば、次のような事柄も研究対象になります。

【1】男性用トイレの「ハエ」

 アムステルダムの空港で、男性用小便器に「ハエの絵(シール)」を貼ったところ、清掃コストが激減しました。男性がつい「的」を狙って用を足したくなる心理を利用し、尿の飛散を防いだのです。
 これは「ナッジ理論(行動経済学)」と呼ばれる立派な経済学の事例です。「汚すな!」と罰金を科すのではなく、人の心理を突いて行動を変容させ、社会コストを下げる。これも経済学の守備範囲です。

【2】大相撲の八百長疑惑

 経済学者が大相撲の星取表を統計分析した、有名な研究があります。千秋楽において「あと1勝で勝ち越し(7勝7敗)」の力士と、「すでに勝ち越している」力士の対戦データを集計したところ、7勝7敗の力士の勝率が不自然なほど高いことが明らかになりました。実力が拮抗しているはずのプロの世界で、なぜこのような偏りが生まれるのでしょうか?
 勝ち越しへの執念という心理的インセンティブか、あるいは何らかの暗黙の力学が働いているのか。いずれにしても、これは、「阿吽の呼吸」やなんらかの取引が存在することを数字が証明しています。
 数字とは無関係に見える世界にこそ、人間の行動原理がデータとして刻まれている。これこそが、データと論理で社会を解き明かす経済学の醍醐味です。

 このほか、理学部と工学部、建築学科と建設学科、文学部英文学科と外国語学部英語学科など、区別がつきにくい学部・学科はいくつもあります。進路指導や受験相談で困らないために、またの機会で、学部・学科の見分け方についてお話ししたいと思います。

塾大連携情報誌『ルートマップマガジン』の西田浩史編集長が大学入試の解説書を上梓しました。『総合型選抜は何を評価するのか(かんき出版)』。学力試験とは異なり、受験生のどんなポイントを評価するのかわかりにくい総合型選抜。総合型選抜の「正体」を分析し、実力より1ランク、2ランク上の大学に合格する「下剋上」のコツなどを解説しています。

アロー教育総合研究所
所長 / 田嶋 裕(たじま・ゆたか)

1969年生まれ。95年早稲田大学法学部卒業。大手予備校、ラジオ局報道部記者を経て、アロー教育総合研究所に入所。大学入試の調査を担当。城西大学外部評価委員。