現場レポート 大学の「いま」 vol.8 by アロー総研

「年内学力入試」解禁!!

2025年6月3日、文部科学省より全国の国公私立大学の学長に対し、ひとつの通知が発せられました。文書の名称は「令和8年度大学入学者選抜実施要項」。2026年度入試をどのように実施すべきかを記した文書であり、各大学は、この実施要項に従った入試を行わなければなりません。この実施要項で日本の大学入試は一変すると見られています。総合型選抜や学校推薦型選抜、いわゆる「年内入試」で早期に学力テストを行うことを条件付きでOKとしたからです。
と、ここまで読んで、何をもったいぶって書いているんだろうと思われた方も多いでしょう。実は、2025年度入試まで、2月1日より早く、学力テストを実施するのは「ルール違反」でした。小論文試験や面接試験、プレゼンテーションやグループディスカッションなどの試験は実施しても良い。しかし、学力テストは、2月1日から3月25日までに行うこと、昨年度の実施要項にはたしかにそのように記載されていました。年内に学力テストを行う「年内学力入試」は「禁じ手」だったのです。

文部科学省が「ルール違反」黙認

これはこれで、驚かれた方もいるかもしれません。近畿圏では「公募制推薦入試」といった名称で年内に学力テストを行う大学はいくらでもあります。「定番」と言っても良いぐらいです。関東圏でも、多くはありませんが、年内学力入試を導入している大学が少なからず存在します。また、「年内」ではありませんが、1月に一般選抜を実施する大学も珍しくありません。それらの大学は「ルール違反」をしていたというのでしょうか?答えは「イエス」と言わざるを得ません。2月1日より早く学力テストを行うのは、実施要項違反であり、多くの大学が、さらには他ならぬ文部科学省が、長い間、「ルール違反」を黙認していたわけです。

学習塾・予備校は「大歓迎」

「ルール違反」への注目度を一気に高めたのは東洋大学でした。学校推薦型選抜(公募制)で、学力テストを実施することを発表。志願者数は約2万人に上りました。追随した大東文化大学や帝京大学、共立女子大学なども、志願者獲得に成功。年内学力入試は待ち望まれた入試であり、高校や学習塾・予備校側は「大歓迎」だったと言えるでしょう。
年内学力入試は、大学側にもメリットがあります。年明けまで受験勉強を続けた学生と比較すると、年内入試による入学者の学力不足は否めません。年内に学力入試を行えば、一定の学力を持った学生を、他大学に奪われる前に早期に囲い込むことができます。大学入試が変わる……そんな状況に「待った」をかけたのが、文部科学省でした。2月1日より前に学力テストを行うのは、実施要項に「違反している」というのです。いままで、さまざまな「ルール違反」を見逃し、放置しておいて、どうして、いまさらルールの「遵守」を求めるのか。手を振り上げた文部科学省と、理不尽な要求を突きつけられた大学。悶々とした状態がしばらく続きました。

「必ず組み合わせる」こと

年が明け、3月になって、実施要項を協議する「大学入学者選抜協議会」では、年内に学力テストを行うことを容認。調査書や推薦書に加え、小論文や面接、実技検査など多面的評価を組み合わせる、という条件付きで実施を認める方針を示し、今回の実施要項となった格好です。
実施要項では、2月1日よりも前に学力テストを実施する場合は、調査書等の出願書類に加え、「小論文・面接・実技検査等」または「志望理由書や学修計画書など志願者本人が記載する資料」と必ず組み合わせて丁寧に評価することを求めています。「必ず」組み合わせるよう念押しをしました。
文部科学省では、年内学力入試の実施を発表している大学に対し、この条件の再確認を求めていて、一部の大学では、入試内容の修正が必要となっています。さらに、今回は、近畿圏の大学についても例外を認めない姿勢だといいます。
いずれにしても。2026年度入試の受験生は、必ず入試要項など大学公式の情報媒体で最新の入試情報の確認をする必要があるでしょう。3月、4月に教育情報各社が発行した情報誌の記載を鵜呑みするのは危険です。

合格通知はクリスマスまでに

ちなみに、近畿圏では、年内学力入試で2校程度を受験、合格通知を手にして、年明けにより難度の高い大学の一般選抜を受験するスタイルが定着しており、関東圏でもこれが大学受験のスタンダードになっていくと見られます。年内学力入試「元年」が到来。多くの受験生が年内のクリスマスまでに、何らかの合格通知を手にする状況となるでしょう。年明けに受験勉強をしているのは、国公立大学と一部の難関大学の受験生のみ、という構図に変わります。受験カレンダーのこれまでにない早期化。学習塾・予備校の皆様も、これまでにない受験指導を探っていく必要があるのです。

6月3日に通知された「令和8年度大学入学者選抜実施要項」が年内学力入試にGOサイン。一方で「小論文」の形式で学力テストを行うのはNGと釘を刺す記載も。

アロー教育総合研究所
所長 / 田嶋 裕(たじま・ゆたか)

1969年生まれ。95年早稲田大学法学部卒業。大手予備校、ラジオ局報道部記者を経て、アロー教育総合研究所に入所。大学入試の調査を担当。城西大学外部評価委員。