「新課程1期生」大学入試へ
現在進行中の2025年度入試。新しい学習指導要領による授業を受けた「新課程1期生」が大学受験に臨んでいるわけですが、入試の出題内容だけではなく、大学の「併願関係」、つまり受験生の志願動向まで変わる可能性があるということで受験界の注目を集めています。渦中にあるのは、私大文系の「歴史総合」、私大理系の「数学B」です。
ご存知ですか?併願ライン
2021年度入試から文部科学省が推進する「高大接続改革(大学入試改革)」がスタートしましたが、それ以前の少しだけ昔の話。首都圏、近畿圏の私大文系の場合、各教科の出題難度で、併願ラインが決まっていました。国語と社会の問題が難しい早稲田大学、明治大学、法政大学。英語が難しい慶應義塾大学、上智大学、立教大学、青山学院大学。みなさんお感じのように、骨太な大学グループとおしゃれな大学グループに分かれていますが、それはキャンパスの雰囲気や学生の気質の違いだけではなく、試験問題の難度の違いも表していたのです。早稲田を受験する場合、国語と社会の勉強量を増やす必要があるので、上智や立教との併願は不利になります。早稲田、明治、法政を併願した方が効率的で、「早明法」の鉄板ラインが形成されることになります。近畿圏も同様の仕組みで併願ラインが存在していました。
「歴史総合」出題する?しない?
そして、2025年度入試の一般選抜で、この併願ラインの消滅が予想されているのです。新課程で生まれた「歴史総合」は日本史と世界史が合体したような科目で、日本と世界の近現代を学びます。双方の理解がなければ、問題を解くことができません。「歴史総合」を出題するのかしないのか。私立大学は2グループに分かれました。早稲田大学は「日本史探究」または「世界史探究」を出題しますが、「歴史総合」は出題しません。一方、明治大学や法政大学は「歴史総合」を出題すると発表しています。ちなみに「歴史総合」の教科書は256ページというボリューム感。早稲田の過去問対策に苦労する受験生が分厚い教科書に向かう余裕があるとは思えません。「早明法」という「鋼鉄の併願ライン」が崩れ、「歴史総合」を出題する慶應義塾、上智、明治、法政の新しい併願ラインが生まれてもおかしくありません。「歴史総合」に注目すると、東西の大学ではっきりとした違いが現れました。東の「日東駒専」は出題しますが、西の「産近甲龍」は出題しません。立命館大学と関西学院大学は、当初、出題するとしていましたが、「出題しない」に変更。「関関同立」は揃って出題しないことになりました。「文部科学省に従順な『東』と反抗する『西』。典型的な構図ですね」と進学予備校の関係者は語ります。
どうなる?私大理系の併願作戦
私大理系に目を向けると、「数学B」の「統計的な推測」を出題するのかしないのか、で大学が分かれました。「統計的な推測」は世界中で急成長の「データサイエンス」につながる分野です。これまで、受験数学の世界では影の薄い存在でしたが、新課程で必須化、受験生の志願動向に少なからぬ影響を与える存在になりました。
「統計的な推測」について、早稲田や東京理科大学は出題し、明治と法政は出題しないとしています。したがって早稲田や東京理科の対策をしている受験生は明治、法政と併願可能ですが、逆に出題しない大学を本命としている受験生が出題する大学を併願する場合は、追加の対策を講じなければなりません。なお「関関同立」は出題しないということです。
拓殖大は全学部で「情報」導入
また、2025年度入試で実技科目から受験科目になった「情報」については、大学入学共通テスト利用方式で選択を認める大学は多いものの、個別試験で導入する私大は少数となっています。慶應義塾や駒澤大学、日本大学の一部の学部で「情報」の試験を実施します。都内では13校が実施、近畿圏では4校という状況です。そんな中、拓殖大学では全学部で「情報」の試験を導入します。サンプル問題も公表していて、「情報」ではどんな入試が行われるのか、参考になります(https://www.takudai.jp/nyushi/past_exam/)。
「大学入試改革」のはじまりは、30年続いてきた大学入試センター試験が大学入学共通テストに変わったこと、でした。今回の新課程入試は、文部科学省が進めてきた改革の本丸と言えます。「明治維新以来の大改革」とも称する取り組みの成果はいかに。その成否は2025年度入試であきらかになります。
情熱ブログご覧あれ!
オマケになりますが、アロー総研と親しい大学職員がブログを開設しました。タイトルは『大学生活のトリセツ』。記事の書き手は、入試の部署からキャリアセンターまで、大学のさまざまな部署の第一線で学生に接してきた女性職員です。情熱と母校愛に満ちた人物で、ブログでは、大学生を抱える保護者を対象に、我が子の大学生活をより充実したものに変えるためのいろいろなアドバイスをしています。不本意入学した我が子の見守り方や就職活動の応援の仕方、さらには家事炊事の教え方まで、大学生活全体を網羅した内容になっています。ぜひ、みなさん一度覗いてみてください。
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アロー教育総合研究所
所長 / 田嶋 裕(たじま・ゆたか)
1969年生まれ。95年早稲田大学法学部卒業。大手予備校、ラジオ局報道部記者を経て、アロー教育総合研究所に入所。大学入試の調査を担当。城西大学外部評価委員。