<谷村選&評>
燕の子ほらと指さす子供連れ
紅一点初夏のターフを駆け抜けり
中村直人(神奈川県)
紅一点の句、牡馬の中の牝馬一頭の句と解釈し、知人の日刊スポーツ競馬記者にレースを特定してもらおうと問い合わせた。その結果、レースは特定できないとの回答。中村さんに確認したところ、この紅一点は馬にあらず騎手とのこと。ガビーンである。視点が違うとこうも解釈が異なってくる、これが短詩俳句の面白いところか。
巣燕(すつばめ)や低く車道を飛び交わす
桜散る日本の誇る小澤逝き
木内恭裕(徳島県)
「小澤」は今年2月に亡くなられた世界の指揮者小澤征爾さん。木内さんはクラシック音楽の大ファンだそうだ。巨星墜つの衝撃を、桜散るの季語に重ねたのがお見事。
鯉のぼり世の荒波も泳ぎゆく
若葉光小鹿野歌舞伎と稚児の紅
監物一男(埼玉県)
小鹿野(おがの)は埼玉県秩父郡にある小さな町。村芝居ならぬ村歌舞伎が伝統芸能として引き継がれている。若葉光の季語が秩父の初夏の風景と「稚児の紅」に似合っている。
ヒナゲシの名にぞ似合わぬオレンジの魔女
百枚の田植えに託す復興千枚田
谷村志厚(千葉県)
1月の震災から半年、被災地能登の復興もままならない。能登の名所に白米千枚田があるが、ここも相当な被害を被ったそうだ。千枚の棚田のうち百枚の田に田植えが行われたとのニュースがあった。これからの稲の成長が復興のシンボルとなるであろう。
編集部よりお願い
次号は10月上旬発行の秋号です。 投句はお一人3句まで冬の季語でお願いします。投稿は、谷村までメールでお送りください。締切りは1月末日です、ふるってご投稿ください。