浪人できない2024年度入試
2024年度大学入試が無事(?)終了しました。現在進行中の2025年度入試は、新学習指導要領による初めての入学者選抜。新設の科目が加わるだけではなく、出題傾向も少なからず変わるのが必至で、2024年度入試は「浪人できない入試」となり、通例通り受験生の「安全志向」が強まったと言えるでしょう。
半世紀近く大学入試の志願動向を調査してきた「豊島継男事務所(https://shiganjoukyou-report.jimdofree.com)」の最新データを基に、2024年度入試の特に一般選抜がどのような状況だったのかレポートします。
東洋大学がライバル追い抜き
私立大学一般選抜の志願者数トップ5は、1位から順に近畿大学、千葉工業大学、明治大学、東洋大学、法政大学。志願者数が10万人を超えたのもこの5大学です。
昨年度5位から8位に順位を下げたのは、大麻問題で混乱を極めた日本大学です。2万人を超える減少となりました。昨年度8位で今回4位にランクアップした東洋大学の志願者が1万6千人の増加となっており、日本大学の受験生が東洋大学に目標を変え、順位もひっくり返った格好です。
「大学入学共通テスト」の出願者数が50万人の大台を割ったのも、注目ポイントです。50万人を割るのは32年ぶりとなるそうです。十分に練られた出題傾向、標準的な出題難度で「良問ぞろい」と評価されていた「大学入試センター試験」に対し、出題傾向が大きく変わった共通テストは受験対策の難しさが指摘されています。特に私立大学専願者にとっては、志望校の過去問研究に加え、共通テスト対策が特別に必要になり、「共テ離れ」が進んでいます。もうしばらく志願者数の減少が続くと見られています。
東京志向と大規模志向が強まる
今回の志願動向を概観すれば、「東京志向」「大規模大学志向」だったと言えるでしょう。東京・南関東地区の高校3年生の数は前年度比95.9%でしたが、東京地区にある大学の志願者数は101.0でした。「コロナ禍」で一時、東京地区の大学が避けられる傾向がありましたが、影響は薄れ、東京志向が復活しました。
また、中小規模大学の8割近くが、志願者減となっているのに対し、大規模大学の過半数が志願者増となりました。中小規模大学の受験生は、総合型選抜や学校推薦型選抜を選ぶいわゆる「年内入試シフト」が進んでいること、また、前述したように「浪人できない入試」による安全志向で、難関大学の「滑り止め」として、大規模な有名大学を受験したことが原因と考えられます。
女子大学進学を選択肢に
苦戦が続く女子大学の志願者数は、前年度比90.7%。一般選抜の志願者数が昨年度の半分といったケースも見られ、深刻な事態になっています。大学ジャーナリストは、こう語ります。「特に西日本の女子大学の状況が悪く、今から共学化しても手遅れと言わざるを得ません。文部科学省もまもなく何らかの手を打つという話も聞こえてきました。いまのところ大学の救済合併を進めようとしているのですが、当の大学側が乗り気にならないようです」。学習院大学との合併を発表した学習院女子大学の志願者数は前年度比174.5%。いまのところ、これはレアケースにとどまっています。
名門女子大学の入学偏差値は下降傾向です。一方、女子大学卒業生に対する求人企業の評価は、今でも高いのが現実です。入学しやすく、就職に強く、しかも伝統の丁寧な教育を受けられるのが女子大学です。みなさまの教室でも女子大学進学を検討してはいかがでしょうか?
年内入試で学力試験を実施
一方、2024年3月、東洋大学がインパクトの大きい発表を行いました。年内に実施する公募制の推薦入試に、「基礎学力テスト型」を導入するというのです。
近畿圏では、「年内入試」で学力試験を実施するのが一般的でしたが、首都圏の大規模大学で導入するのはこれが初めてとなります。
首都圏の有力大学である関東学院大学や共立女子大学も年内入試で基礎学力試験を行うと発表していて、追随する大学が増えていくのは間違いありません。年内入試の総合型選抜や学校推薦型選抜では、受験生の「学力」以外の資質を評価。学力試験が得意な受験生は、年明けに行われる一般選抜を受験、というのがこれまでの図式でした。
東洋大学の発表により、「学力」で勝負する受験生の争奪戦が年内にスタートするのは確実と言えるでしょう。
東京・西巣鴨にある大正大学では、学習塾・予備校対象の「入試報告会」を実施。「塾大連携」を進めています。
アロー教育総合研究所
所長 / 田嶋 裕(たじま・ゆたか)
1969年生まれ。95年早稲田大学法学部卒業。大手予備校、ラジオ局報道部記者を経て、アロー教育総合研究所に入所。大学入試の調査を担当。城西大学外部評価委員。