私塾ネット 第20回全国塾長・職員研修大会報告 [2023.4.23]

文:私塾ネット副理事 中村直人

4月としては少し暑い2023年4月23日(日)の午後1時より、大井町のきゅりあん7Fイベントホールにて、全国私塾教育ネットワーク・第20回全国塾長・職員研修大会が開催されました。長引くコロナ禍のため、昨年はWEB参加がメインでしたが、久しぶりに会場での研修大会となりました。一部、ZOOM参加あり。

今回は『言葉を届ける』(声掛けひとつで子どもは変わる。)をテーマに、学校法人東洋大学京北幼稚園園長・文京区私立幼稚園連合会会長の川合正先生に、記念講演をお願いいたしました。先生は、京北中高等学校、京北学園白山高等学校にて校長を11年務められ、東洋大学講師そして現職に就きながら、各地の教育委員会や公立私立の小・中・高校からの要請で、今までに500回以上の講演を行い、親子のコミュニケーションの大切さを訴えてきました。幼稚園から大学までと幅広い現場経験から想うこと、これから私たちがどう子どもたちと関わっていくのが良いかを伝えていただきます。当日は、参加人数73名。内訳:会場70名、WEB参加3名でした。

【第1部】情報交換会
開場13:00 大会 13:20~14:10(進行 鈴木正之)

鈴木先生の突然の指名で話をしていただく、「むちゃぶり」で始まりました。最初の被害者は、私塾ネット最高顧問の谷村志厚先生。いま話題のChatGTPで「学習塾の将来は?」と尋ねてみたらで、一節お話しいただきました。次は、アロー総研の田嶋裕さん。次いで新入会員及び入会希望の方たちに一言話をしていただきました。

その後ディスカッションに移り、テーマは「未来の子どもたちに伝えたいこと」。各テーブルに分かれたグループで自己紹介の後、議論をして15分後にリーダーが話し合いの報告をしました。一種のアイスブレークと次の川合先生のお話につなげる目的です。小休止の後、会場を変えて第2部に入りました。

【第2部】研修大会 
開場14:10 大会14:30~17:00(進行 仲野十和田)

①オープニング14:30~14:45

「全国研修大会を振り返る」という過去の研修大会をまとめたムービーが流される。今は亡き懐かしい先生方のお顔、今の先生方の若かりし頃の映像に、会場から声が上がる。


次に、私塾ネットセンター理事長・田中宏道先生の主催者挨拶。その後に、ご来賓祝辞を全国学習塾協同組合の森貞孝理事長よりたまわりました。最初にスマホを手に淡々と祝辞を述べられましたが、終わるとすぐ「今話題のChatGTPにて祝辞を作ってみました。」と種明かしをされました。その祝辞自体も決して不自然なものではなく。これはキーワードの入れ方が絶妙だったのか。何よりも、齢90歳にならんとする森先生の最先端技術への飽くなき好奇心には驚かされました。

②記念講演14:50~16:50
『言葉を届ける』 学校法人東洋大学 川合正先生

先日幼稚園である子が、「園長先生、白い石が砂の中に入っていたよ。」とやってきた。「へえ、石なの?もっとよく見せて。」と言うと、本人もよく見て「あっ違う、卵のかけらだ。」「もっとよく、並べて見て。」「違う、これ貝だっ。どうして砂場に貝があるの、園長先生。」その時に、「へえ、なぜだろうね。考えてみようねぇ。」と言った。すると、次の日に来て、「あのねえ、園長先生。園にある砂はねえ、みんな海の方から持ってきて、ここに敷いたみたいだよ。砂場の砂も、みんな海からの砂なんだね。」と気づいたようです。貝を持ってきたときに、私が「それは貝だよ。海から持ってきた砂だからね。」と言ったら終わっていたけれど、その子はすごい発見をしたんですね。そして、いろんな先生達にそれを話したんです。どうです皆さん、幼稚園って楽しそうでしょう。こういう職場で、毎日子供たちの言葉を拾おうと思っています。言葉を拾うときには、我々が邪魔をしてしまってはいけないんだと、毎日実感しています。

本日は、『言葉を届ける』というタイトルを付けました。皆さん方は、普段から毎日子供たちに、生徒たちに、学生たちに、いろんな言葉を届けられておられますが、今日はそれをちょっと整理してみようと思います。

1.目の前の人をより良く知る(アイスブレーク)

◇履歴書的インタビューとチェーンインタビュー
(会場の方たちにマイクを渡し、即先生について質問をしてもらい、それに答える。)

Q:「先生はなぜ、子供たちに答えを与えるのではなく、質問しようと思ったのですか。」A:「邪魔をしないためですよ。子供たちの自主性の邪魔をしないためにはどうすればよいかを考えて、自分がたどり着いたところでしょうかね。」(以下省略)今のは、皆さんが知りたいことを質問したので、調査的インタビューといいます。

実際子どもたちと接するとき、しゃべれない子は困りますよね。また質問も難しいです。そこでチェーンインタビューというのを使います。相手の言った言葉のみ使い質問していく。それ以外は言わない。するとその相手や問題点の全体像が立ち上がってくる。「私は三重県生まれです。」「三重県のどこですか?」「松阪と伊勢の間の寂しい村なんです。」「寂しい村なんですか?」「こんな寂しい村は早く飛び出したいと思っていたんです。」…以下続くが省略。履歴書的なインタビューにも使える。会話の基本はここにあるので、この技術のマスターは非常に重要。

◇音リレー

先生が手をたたいたら、端から順に間髪を入れず手をたたいていく、端まで来たら後ろに折り返す。最後の人は2度たたいて終了。不思議と会場の一体感が生まれた。落ち着かないクラスを一つにまとめる効果がある。ここまでが、アイスブレークで、すこしほぐれる。

2.子供の行動に介入する時の留意点を考える(グループワーク)

会場を6つのグループに分け、①危機介入②SOSの発信③習慣化の恐れ(明日テストなのにゲームばっかりしている等)④うっかりミス(教室のガラスを割ってしまったとか)⑤反抗(思春期)⑥親や教師への不満 これらについてどう対応して入っていくか数分間そのグループで話し合ってもらう。話し合い終了後、先生が各グループを回り、指名あるいは代表者に話してもらう。それに対し的確に分析・評価し、良いところや補足のアドバイスをされる。

3.怒ると叱るはちがう

怒る…ブラックエンジン(恐れやプレッシャーによる動機、昔の高校野球監督など) 
叱る…ホワイトエンジン(感謝や貢献、信頼からくる動機、最近の高校野球監督など) 

違いが分かったら、ちょっと普段自分がやっていることをチェックし直してみてください。子供を怒るとき感情的になってないか、自分はなぜ褒めているのか、自分の状態をその場で点検するメタ認知の能力が、未来の子どもを預かっている皆さんには重要なのです。

4.褒めれば子どもは伸びるのか?

叱り方が分かったところで、じゃあ褒めていれば伸びるのか。「褒めれば子どもはだめになる」という本には、褒めてばかりいると子どもは自己中になり、社会に出て打たれ弱くなるということです。自信過剰になるということですね。褒めることも難しいのです。褒めるときのポイントのトップは、結果でなくプロセスを褒めることです。以下褒めるときも含めて注意点4つ。

◇結果よりもプロセスを褒める。◇具体的に子どもの好ましい点や行為を褒める。◇感謝していることを素直に話す。◇ダメなものはダメと毅然とした態度で接する。躾のない教育はない。

5.信頼関係がすべての始まり~チェックシート~

信頼…生徒に信頼される授業をしているか。(判定〇△×)
観る…生徒の特長や状態をいつも観察できているか。(判定〇△×)
聴く…生徒や保護者の話にしっかり耳を傾けているか。(判定〇△×)
話す…相手を尊重し、自分の言葉を明確に伝えているか。(判定〇△×)
協働…同僚や上司と相談しながら物事を進めているか。(判定〇△×)

6.「YouメッセージをIメッセージに変える」だけで、親子関係は劇的に変わる。

(ワークショップ)いつも18時までには帰ってくる中2の娘が20時になっても帰ってこない。心配して待っていると、やっと帰ってきた。あなたならどう娘に声を掛けるか。参加者にそれを書かせる。

「どうしてあなたはこんな時間まで遊んでんの!」→「うるさいわねえ。」
「私、事故でもあったか本当に心配してたのよ!」→「ごめんなさい。」この差は大きい。
子ども・生徒を叱るときは、Iメッセージで行きましょう。

7.子どもとの相談にのるワーク~カウンセリング的アプローチ~(4人ワーク)

(ワークショップ)「あ~あ、学校へ行くの嫌だな」と子どもがポツンと言った。あなたは、どう声掛けしますか。ワークシートに、生徒→先生→生徒→先生と右回りで、4人でワークシートを完成させてください。紙の上のロールプレイ。

終わって、川合先生が各机を回って発表させ、批評する。いろいろなパターンがあり面白い。

カウンセリング的アプローチ:共感(受容)→確認→追加→思考の共有

ここで時間をたくさん使いましたので、最後は少々駆け足になってしましました。

8.やる気のない子にやる気を出させる~ペップトークの実践~

寄り添う人になる→気づかせる人に→未来に導く人に→勇気づける人に

9.未来を切り拓く対話(ダイアローグ)の基本

対立から共生へ(ディベートのように対立するのではなく)
メタ認知→判断評価の保留→傾聴→学習と変容→リアルタイムリフレクション

10.子どもの相談にのる態度を点検する(二人組ロールプレイ)(省略)

11.シェアリング(分かち合い)(省略)

その他、スマホなどのスクリーンタイムを減らすお話など、残念ながら紙面の関係で省略させていただきました。

かなりのボリュームの内容を入れてしまいましたが、Iメッセージ、カウンセリング的アプローチ、チェーンインタビューなどが使えれば、子どもたちとの会話が進むはずです。

皆さんとともに、この子どもたちを絶対に未来に届けましょう。

③振り返りと感謝
16:50~17:00 私塾ネット会長 鈴木正之

【第3部】懇親会
17:30~19:30 (進行 渡辺浩)

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